銀行のサポート格付及び存続性格付
サポート格付
サポート格付の目的と機能
サポート格付は、銀行に対する潜在的な支援提供者の支援性向や支援能力についてのフィッチの評価である。支援性向はフィッチの判断に基づく一方、支援能力は潜在的な支援提供者の外貨建て及び必要に応じて自国通貨建ての発行体デフォルト格付の双方によって評価される。なお、サポート格付は、当該銀行に固有の信用力の質を評価するものではなく、当該銀行が必要時に支援を受けることができるか否かについてのフィッチの意見を表すものである。サポート格付を裏付ける決定要因については、関係当局や株主と協議される場合もあるが、格付は専らフィッチの見解を表している。
適時性及び有効性の要件
フィッチのサポート格付の定義は、必要とされるいかなる「支援」も適時に提供されることを前提としている。また、かかる定義は、支援が十分に継続され、支援を受けた銀行が、危機を脱するまで金融債務の履行を継続できることを前提としている。
対象となる債務及び金融商品
サポート格付の定義においては、別途記載のない限り、「支援」は外貨建て債務を対象とするものとみなす。一般に支援対象になると想定される債務は次のとおり:◆付保及び付保対象外預金(リテール、ホールセール、インターバンク)を含む非劣後債務(有担保及び無担保)。◆デリバティブ取引、法的に履行強制可能な保証及び補償、信用状並びに手形引受け等から生じる債務。◆売上債権及び裁判所判決等から生じる債務。
一方、政府による支援に関して、次のような資本商品は支援の対象にならないとみなされる:◆優先株。◆リザーブ・キャピタル(RCI)及びこれに類する商品を含むハイブリッド資本(Tier 1資本及びUpper Tier 2資本)。◆普通株。また、証券化に関する道徳上の債務に対する支援はないものと想定される。劣後債務に対する政府支援については、事前の分類が困難であるため、各法域で区別して、個別ケース毎に評価されることになる。
定義:
1:
外部支援の蓋然性が極めて高いと見込まれる銀行。潜在的な支援提供者は、他に頼ることなく非常に高い格付を有しており、対象となる銀行に対する支援性向は非常に高い。サポート格付「1」は、長期格付の下限(フロアー)が「A-」(Aマイナス)となることを意味する。
2:
外部支援の蓋然性が高いと見込まれる銀行。潜在的な支援提供者は、他に頼ることなく高い格付を有しており、対象となる銀行に対する支援性向は高い。サポート格付「2」は、長期格付のフロアーが「BBB-」(BBBマイナス)となることを意味する。
3:
潜在的な支援提供者の能力又は支援性向に不確実性が認められるため、外部支援の可能性が中庸である銀行。サポート格付「3」は、長期格付のフロアーが「BB-」(BBマイナス)となることを意味する。
4:
全ての潜在的な支援提供者の能力又は支援性向に重大な不確実性が認められるため、外部支援の可能性が限定的である銀行。サポート格付「4」は、長期格付のフロアーが「B」となることを意味する。
5:
潜在的な支援提供者の支援性向が欠如しているか、その財務力が非常に脆弱であるため、外部支援の可能性はあるものの、かかる支援に頼ることはできないと思われる銀行。サポート格付「5」は、長期格付のフロアーが「B-」(Bマイナス)以下となることを意味するが、多くの場合下限は設けられない。
サポート格付フロアー
サポート格付が政府による潜在的支援に依拠している場合、フィッチのサポート格付フロアーは、サポート格付から直接導き出される。サポート格付フロアーは、サポート格付自体と同様、銀行に対する潜在的な支援提供者の支援性向と支援能力についてのフィッチの評価に基づいている。サポート格付フロアーは、当該銀行に固有の信用力の質を評価するものではなく、当該銀行が必要時に支援を受けることができるか否かについてのフィッチの意見を表すものである。サポート格付を裏付ける決定要因については関係当局と協議される場合もあるが、格付は専らフィッチの見解を表していることに留意されたい。
サポート格付フロアーは「AAA」で表す長期格付と同様の尺度で表示される。フロアーは、サポート格付を決定する前提条件に変更がない限り、発行体デフォルト格付を当該フロアー未満には引き下げないという水準を明確に表すものである。なお、「AAA」で表される尺度に加え、「フロアーなし」(NF)という区分が設定されている。「フロアーなし」は、潜在的な支援の供与が相当程度には見込まれないというフィッチの見解を表すものである。通常、「フロアーなし」の場合、支援の蓋然性は凡そ40%未満である。
存続性格付
存続性格付(VRs)とは、国際比較が可能であり、かつ、発行体本来の信用力に対するフィッチの見解を表すことを意図したものである。VRは、フィッチのサポート格付の枠組みと共に、銀行に対する発行体デフォルト格付(IDR)の主な構成要素であり、以下を含む各種要素が考慮される。
· 業界特性と事業環境
· 企業特性とリスク管理
· 財務内容
· 経営戦略とコーポレート・ガバナンス
銀行業を営む法人、銀行持株会社、そして稀にそれらに類する法人に対して、当該法人の財務力の源を明確にすることが有益であると考えられる場合に、VRsは付与される。特に、存続性格付においては、当該法人の外部から得られうる特別な支援、そして、事業不振に起因する債務見直しを含むその他の特別な措置から銀行の財務状況が享受する潜在的利益が、除外されている。
とりわけ、フィッチでは、通常、以下を銀行の破綻又は存続が困難であることを示すものとみている。
· 一般債務の不履行
· 破綻処理制度、破産、管理レシーバーシップ(再建型倒産手続の一種)又はそれに類する法定プロセスの開始
· 規制上(又はその他の)資本性商品に組み込まれた破綻条項の抵触
· フィッチの基準において定義づけられた事業不振に起因する債務交換の履行
· 債務不履行又は他の破綻事由発生の回避を目的とした特別な支援の享受
VRsは、特別な支援のみならず特別な制約(例:送金・交換性リスク)がない場合に、格付対象先が、債務を履行する能力を示すものである。そのため、VRsは、銀行が業務継続を維持し破綻を回避する能力を示す。破綻は、銀行の債務不履行を阻止するために、特別な当該法人に対する措置が必要となることによって示される。
aaa: 最も高い本質的 (fundamental) 信用力
現行の存続性が維持される可能性は最も高く、破綻リスクは最も低いと見込まれる。本質的特性は極めて強固かつ安定しており、デフォルト回避のための特別な支援に対する依存の必要性は極めて乏しい。予見し得る事由がかかる性質に悪影響を与える可能性は、非常に低いと考えられる。
aa: 非常に高い本質的信用力
現行の存続性が維持される可能性は非常に高い見通しであることを示す。本質的特性は非常に強固かつ安定しており、デフォルト回避のための特別な支援に対する依存の必要性は非常に低い。かかる性質が予見し得る事由によって著しく損なわれることはないと考えられる。
a: 高い本質的信用力
現行の存続性が維持される可能性は高い見通しであることを示す。本質的特性は強固かつ安定しており、デフォルト回避のための特別な支援に対する依存の必要性は低い。ただし、経営又は経済環境の悪化がかかる性質に及ぼす影響は、上位格付の場合より大きくなり得る。
bbb: 良好な本質的信用力
現行の存続性が維持される見通しであることを示す。本質的特性は概ね十分な水準にあり、デフォルト回避のための特別な支援の必要性が生じるリスクは低い。ただし、経営又は経済環境の悪化がかかる性質を損なう可能性がより高い。
bb: 投機的な水準にある本質的信用力
現行の存続性が維持される見通しは中庸であることを示す。中位の財務力を有しているものの、かかる財務力は、デフォルト回避のための特別な支援への必要性が生じる前に損なわれていると考えられる。しかしながら、特に経営又は経済環境が時間の経過と共に悪化した場合、脆弱性が高まる。
b: 非常に投機的な水準にある本質的信用力
現行の存続性が維持される見通しは低く、重大な破綻リスクが存在するものの、安全性が限定的ながら残っていることを示す。銀行が支援なしに事業を継続する能力は、経営及び経済環境の悪化に対し脆弱である。
ccc: 相当重大な本質的信用リスク
破綻が現実の可能性として認められる。支援なしに事業を継続する能力は、経営及び経済環境の悪化に伴い低下する可能性が非常に高い。
cc: 非常に高い水準の本質的信用リスク
破綻する蓋然性が高い。
c: 極めて高い本質的信用リスク
破綻が差し迫っている、又は不可避である。
f: 「f」格付は、フィッチが破綻していると考える発行体で、デフォルトした発行体又は特別な支援を受けなければ、又はその他の特別な措置を享受することがなければデフォルトしていたとみられる発行体を示す。
注:主要な格付における相対的な位置付けを示すため、「+」又は「−」の符号を付すことがある。ただし、VR格付「aaa」又は「b」未満のVR格付にはこれらの符号を付さない。何時でも、銀行の状況及び見通しには、基本的傾向が存在しうるものの(例:改善、悪化、安定等)、アウトルックはVRsには付されない。
保険会社財務格付の定義
保険会社財務格付(IFS格付)は、保険会社の財務力についての評価を表すものであり、保険契約者債務にかかる保険会社の支払能力に対して付与されるが、同格付には、再保険や保証投資契約などにかかる債務も考慮されている。同格付は、これらの債務を保険会社が遅滞なく履行する能力を評価すると共に、保険会社の破綻、規制当局からの介入により、支払が中断・停止した場合の回収見込みも反映している。IFS格付では、契約や規定に照らし合わせて支払の適時性を判断するが、保険金支払内容の精査や詐欺行為の調査、保険範囲の検証といった業界固有の事由による支払の合理的な遅延も考慮されている。
特別勘定やユニット・リンク保険、分離口座にかかる保険契約は、契約者が投資・その他のリスクを負うものであり、かかる契約者債務は IFS格付に考慮されない。ただし、当該債務のなかで保険契約者に提供される保証については、同格付に反映される。
回収見込みは、保険会社の支払が中断・停止した場合に、当該保険会社の資産が契約者債務履行のために十分であるかという観点から予想される。したがって、政府保証又は契約者保護機構からの回収見込みは反映されない。また、再保険にかかる債務を填補するような信用状や受託資産などの担保・保証の影響も除外されている。
IFS格付は、生命保険及び年金保険、損害保険、健康保険、抵当保険、金融保証、残存価値保証そして権限保険といった、あらゆる分野の保険会社及び再保険会社、健康維持組織(HMO)のようなマネージド・ケア企業について付与される。
IFS格付は、契約者の請求に対する保険会社のサービスの質又は保険商品の相対的な価値を測るものではない。
IFS格付の表記は、フィッチが長期・短期債務の国際・国内信用格付に用いるものと同一である。しかし、IFS格付は保険業界を対象とするため、その格付に関する定義は、業界の特異性を反映している。
支払不能状態や経営破綻、規制当局の介入により支払が中断した保険債務には、通常、「B」から「C」の長期IFS格付(国際・国内共)が付与される。かかる状況下における国際格付は、当該保険会社の国際長期IFS格付と整合するものである。
国際長期IFS格付の定義
以下の格付定義は、外貨建て/自国通貨建ての格付に適用される。「BBB-」(BBBマイナス)以上の格付は「安全」、「BB+」以下の格付は「脆弱」とみなされる。
AAA: 支払能力が極めて高い。
支払の中断や停止の可能性が最小レベルであり、保険契約者債務やその他の契約債務を遅滞なく履行する能力は極めて高い。予見し得る事由がこの能力に悪影響を与える可能性は、非常に低いと考えられる。
AA: 支払能力が非常に高い。
支払の中断・停止の可能性は非常に低く、保険契約者債務やその他の契約債務を遅滞なく履行する能力は非常に高い。この能力が予見し得る事由によって著しく損なわれることはないと考えられる。
A: 支払能力が高い。
支払の中断・停止の可能性は低く、保険契約者債務やその他の契約債務を遅滞なく履行する能力は高い。しかし、事業環境・経済環境の変化によって受ける影響は、上位格付の場合よりも大きくなり得る。
BBB: 支払能力が良好。
支払の中断・停止の可能性が現在は低い。保険契約者債務やその他の契約債務を遅滞なく履行する能力は概ね十分にあると考えられるが、事業環境・経済環境の悪化から影響を受けやすい。
BB: 支払能力がやや不十分。
特に経済又は市場環境が時間の経過と共に悪化した場合、支払の中断・停止の蓋然性が高まることを示す。ただし、保険契約者債務やその他契約の債務を遅滞なく履行するために必要な経営又は財務上の代替手段が利用可能な場合もある。
B: 支払能力が不十分。
「B」のIFS格付は、以下の二通りの状況に適用される。債務が遅滞なく履行されている場合、支払が将来中断・停止されるリスクは大きいものの、支払能力が限定的ながら認められることを示す。当該会社が継続して債務を遅滞なく履行するには、良好な経営・経済環境が持続すること、市場環境が良好であることが必要である。一方、支払が中断・停止している場合、極めて高い回収率が想定される債務に対して「B」のIFS格付が付与される。かかる債務の回収率格付は「RR1」(極めて高い予想回収率)となるであろう。
CCC: 支払能力が非常に低い。
「CCC」のIFS格付は、以下の二通りの状況に適用される。債務が遅滞なく履行されている場合には、将来、支払の中断・停止が実際に起こる可能性が現実味を帯びていることを示す。当該保険会社が債務を遅滞なく履行し続けることができるか否かは、良好な経営・経済環境の継続及び市場環境いかんによる。一方、支払が中断・停止している場合、平均から非常に高い水準の回収率が想定される債務に対して「CCC」のIFS格付が付与される。したがって、かかる債務の回収率格付は「RR2」(非常に高い予想回収率)、「RR3」(良好な予想回収率)、「RR4」(平均的な予想回収率)のいずれかとなるであろう。
CC: 支払能力が極めて低い。
「CC」のIFS格付は、以下の二通りの状況に適用される。債務が遅滞なく履行されている場合においても、支払が将来中断・停止することが予想される。一方、支払が中断・停止している場合、平均ないし平均未満の回収率が想定される債務に対して「CC」のIFS格付が付与される。したがって、かかる債務の回収率格付は、「RR4」(平均的な予想回収率)又は「RR5」(平均未満の予想回収率)となるであろう。
C: ディストレスト(債務不履行直前)
「C」のIFS格付は、以下の二通りの状況に適用される。債務が遅滞なく履行されている場合においても、支払の中断・停止が間近であると考えられる。一方、支払が中断・停止している場合、平均未満ないし低い回収率が想定される債務に対して「C」のIFS格付が付与される。かかる債務の回収率格付は、「RR5」(平均未満の予想回収率)又は「RR6」(低い予想回収率)となるであろう。
注:
同一の格付の中で相対的な位置付けを示すため、「+」又は「-」の符号を付与することがある。ただし、「AAA」又は「B」未満の格付にはこれらの符号は適用されない。
短期IFS格付
短期保険会社財務(IFS)格付は、保険会社の短期的な財務状態の健全性についての評価及び保険契約者への支払期限が1年以内に到来する上位債務の履行能力についての評価を表している。短期IFS格付の裏付けとなる分析は、IFS格付の分析で考慮される全ての要因を含んでいるが、保険会社の短期的流動性、財務の柔軟性及び規制上のソルベンシー指標への比重を高め、競争力や収益動向など、より長期的な課題に対する比重を弱めている。
フィッチでは、長期IFS格付を取得している保険会社にのみ、短期IFS格付を付与する。現在のところ、短期IFS格付は、主に、短期債務証書(short-term funding agreement)を販売している米国の生命保険会社に用いられる。
短期IFS格付で用いられる尺度は、短期債務・発行体格付と同じ国際格付尺度である。
F1
短期保険契約者債務の支払が行われる可能性が最も高い。とりわけ高い信用力が認められる場合には「F1+」が付与される。
F2
短期保険契約者債務の支払が行われる可能性が高い水準にある。
F3
短期保険契約者債務を履行する能力が概ね十分にある。
B
短期保険契約者債務を履行する能力が低い。
C
短期保険契約者債務を履行する能力が極めて低い。